未来への希望を抱いて(57)

私たち国民の責務【その12】

毎日新聞「縦並び社会・第3部」から

毎日新聞連載「縦並び社会・第3部・格差社会の源流に迫る」からの引用で
す。

障害者互助会・無認可共済つぶしにかかる改革

5回目(4月7日)は、「改革迫る『ガイアツ』」「利害一致 日本側も利用」の見出しで、記事は知的障害者たちがよりどころとする無認可共済の互助会(会員約5200人)に、消費者保護を理由に規制緩和とは逆の重い規制を課して、互助会は存続にも影響する事態に直面していることを伝えています。
福祉作業所で働く22歳の男性は、障害者というだけで保険会社には加入を断られ、肺炎でたびたび入院する男性にとっては、安い掛け金で済む互助会の給付金に助けられてきた、という現実があります。
「その互助会が昨年4月の保険業法改正で、保険専門スタッフをそろえるよう迫られている。金融庁は『共済の財政を健全化し、消費者を保護するため』というが、事務局は掛け金収入のほとんどが人件費などに消えてしまう」というように、存続の危機に立たされています。

すべての共済に保険会社と同一規制求めた米

金融庁が、無認可共済への規制を金融審議会に諮ったリストは、「保険の業界団体や米国が総合規制改革会議(宮内義彦議長=オリックス会長)に提出した要望の抜粋だった。最も強い表現を使ったのは、『すべての共済に保険会社と同一の規制』を求めた米国。背景には共済にシェアを奪われる危機感がある」ということなんですね。だから金融委員の中でさえ、「こんなに厳しい規制を急いでかけては共済つぶしと疑われても仕方がないと指摘する」くらいですから、規制緩和も都合によっては規制もかけて……米国や業界の思惑次第にことを運ぶ、ということなのでしょう。

政財界や役所が米の要求利用し上乗せはかる

それを証明するように、「その前年の秋、共済をめぐる動きがすでにあった。在日米国商工会議所が政府に規制を求め、米国の対日規制緩和要求リスト『年次改革要望書』にも盛り込まれていた」というのです。それというのも「米政府は対日貿易赤字の削減交渉に行き詰まっていた」という見返りに、日本市場に進出する上での「規制緩和を求める路線への転換」を日本側に迫ってきた、ということでしょう。対米貿易黒字はそのままにして、「自由な競争こそが日本の競争力向上につながると考える通産省経団連と(米国の)利害が一致した」という次第ですね。
米政府が、日本に要求する年次改革要望書には、「日本の財界人、役所、政治家が(自分たちの要望を)アメリカの要求に加えてほしいと頼んできたことがある」と証言しているそうです。日本の政財界は、国民生活から離れて、米国などとたくみに組みながら、新しい何か戦略を考えているのかもしれません。

保険がないと自己破産する米の高額医療費
米は人口の16%もの4600万人が保険未加入者

同6回目(4月12日)は、「命の値段も自由化」「皆保険脅かす混合診療」の見出しで、記事は米国の民間医療保険などの現状を伝えています。
バージニア州で、主婦(28歳)が01年に出産した長女は早産のため、1カ月ほど大学病院に入院したところ、請求された医療費の総額はなんと、約100万ドル(約1億1700万円)にも…、しかし、幸い入っていた民間医療保険でカバーし、250ドルの負担で済んだそうです。夫(29歳)の給料と妻のパート代合わせて約4万8000ドルの年収は、米国で普通の中間層の家庭だそうですが、今度は03年、不幸に見舞われます。夫が転倒して骨折、手術した医療費が2万6000ドルにもなり、しかも今度は転職したばかりで保険に入っていなかったため、自己破産に追い込まれてしまった、というのです。
米国には民間医療保険のほかに、低所得者や高齢者向けの公的保険があっても、対象者の範囲は狭く、人口2億9000万人のうち保険未加入者は4600万人にも上るそうです。その一方で、保険会社と民間病院が巨額の利益を上げていて、「日本は米国の医療制度を模範にしようなどと決して考えないことだ」と、米国の貧困層向け病院に勤める医師は、警告しているそうです。

国民皆保険の崩壊招くと日本医師会は反対するが

その日本で、世界に誇る皆保険制度が危うい、というのです。「04年、規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が設置した官製市場民間開放委員会は『混合診療』の解禁を目指した。医療費の膨張を背景に、公的保険でカバーする範囲を狭め、自由診療の部分を増やそうという考え方だ。/しかし国民健康保険料すら払えない人が急増する中、自由診療が増えると治療を受けられない人が出るおそれが強い。日本医師会は『国民皆保険の崩壊を招く』と反対したが、東京大学など3病院と日本外科学会は04年秋、宮内議長に混合診療解禁を要望。医療界は一枚岩ではなかった」と書いています。

「セコム損保」01年に自由診療保険発売開始
高額医療費も安心、だが経済効率悪い病棟は切り捨ても

さらに記事では、「医療費はあと10兆円伸びる余地がある」と、混合診療の解禁を狙う保険業界。セコムグループの「セコム損保」は、01年、自由診療保険を発売するなど、自由診療の拡大に向けた動きはすでに起きている、というのです。そして、同保険の「協定病院」は166病院に達して、国立病院機構の病院まで加わっているそうです。
神奈川県内の「協定病院」では、「『手術費用が高くてもセコムが確実に治療費を払うから病院は安心』と語る。一方、重度心身障害者用の80床は看護師が一般病床より多く必要で、採算が合うとはいえない。院長は『経済効率だけを考えれば切り捨てられる医療が必ず出てくる』と顔を曇らせる」――と。
株式会社の病院経営も、この夏、横浜市に開院するそうです。医療分野の構造改革特区第1号としてのもので、今は美容整形など特殊な分野の自由診療に限られていますが、規制改革・民間開放推進会議のメンバーが委員長を務める特区の評価委員会はいっそうの緩和を要求している、ということです。