未来への希望を抱いて(67)

私たち国民の責務【その22】

市民による「互助・互恵の輪を広げて……②」
「怒りはどこへ」…全共闘時代のノスタルジーか?

毎日新聞(5月1日)の「特集ワールド・怒りはどこへ…?」の前文で、藤原章生記者は「『フランスではこの4月、学生たちのデモが政権を揺さぶった。なのに日本人は……』。最近、こんな声を耳にする。小泉政権が『愛国心』を強いる教育基本法改正や、テロ対策を理由に徒党を阻む共謀罪の新設を進めるが、国会では大きな論争もまだない。(略)そんな時代、『国民は怒れ』という声は、全共闘時代へのノスタルジーに過ぎないのだろうか」と、問いかけていました。

これほど責任回避の時代なかったのでは
政財界ら強者は集団で、若者ら個人は砂粒化されて

その特集紙面に登場する2人のうちのひとり、内田 樹さん(神戸女学院大教授・フランス現代思想)は『これほどの責任回避の時代はなかったのでは』と憤ります。「勝ち組、負け組というが、注目すべきは『勝ち負け』ではなく『組』の方だ。小泉政権をはじめ財界、役人らの強者はみな集団に属している。自己決定の自由を譲る代わりに、リスクと責任を免れる。単独で利益追求しない代わりに、集団の利を内部で分配している」と。それに対して、
「こうした強者が『集団に属すな、個性を生かせ』と教え、まともに信じた若者たちがばらばらに砂粒化されている。彼らに組織化のノウハウはなく、ネット上に集まっても、政治的な実力はない。中国や韓国を仮想敵にしたネット右翼のショナリズムが政治党派になる可能性はない。固有名で発信することさえ嫌う人が、肉体を政治の現場に差し出すはずもないからだ」

職場も大学も意見言わず議論なく批判しても提案なし

そして「集団に属するのは時代遅れの非効率的な生き方とされた。90年代末には『自己責任』『自分探し』がスローガンとなり、晩婚化・少子化や非正規雇用に拍車をかけた。今、職場でも大学でも人が意見を言わず、議論しないのは、責任を取りたくないからだ。批判するが提案しない。要求はするが自分の仕事は増やさない。責任を引き受けることがこれほど忌避された時代はかつてなかったのではないか」と書いていました。

団塊世代と同ジュニアは安住してきたおじさんたち
日本人は元来反政府的行動しない国民では

もうひとり、『団塊ジュニアの保守傾向 自明だ』という荷宮和子さん(女子子ども文化評論家)は、「『なぜ日本人はデモをしないのか』。これは団塊団塊ジュニアが中心となる日本の多数派の中で、安住してきたおじさんたちの発想だ。特に若い女の子の場合、(60年代生まれの)私の世代よりもはるかに保守的で、お上が決めたこの階層社会でよりリッチにと、一段上がることしか考えていない」
「日本人は元来、反政府的な行動をしない国民だと思う。全共闘運動は、単に数の多い団塊の男たちが、男の子特有の暴れたい衝動で大騒ぎしただけと私には思える」と言うのです。

先行き支配層に大多数の男と、それ以下が女の階層社会に

また、「学生時代、在日朝鮮人の友達が『おれ、朝鮮人やから子供つくらへんねん』と言ってた。それに『なんで?』って反応するような学生もいたけど、こういう無知で善良な人々が一番困る。『なぜ怒らない』と問うマスコミにも同じものを感じる」
「『格差が開く』『就職が大変だ』って騒ぐのも、大体が団塊おやじだ。でも私に言わせれば『ああ、性別だけで優遇されていた無能な男たちも、格差社会では機会均等法前の私たちみたいになるのね。ざまあみろ』って思う。でも、男女平等なんて現実にはないから、これからは支配層と大多数の男と、それ以下に扱われる女という階層に分かれていく」と、先行きはさらに悲観的です。

共謀罪新設されれば適用恐れ活動萎縮も

そんな世相の中、今国会で自民党など与党は「共謀罪」の新設をめざしたものの、どうやら成立は見送られるようです。しかし、「共謀罪」は、今後も繰り返し提案されてくるでしょう。その場合、合意しただけで罪に問える組織犯罪処罰法などの改正案をめぐり、国民の間にも「内心の自由が脅かされる」「捜査当局が乱用する恐れがある」といった危惧、不安が広がっています。それについて、櫛渕万里さん(ピースポート事務局長)は、「『共謀罪』新設に・言いたい』(毎日新聞、5月9日)で、「適用恐れ活動萎縮」の見出しのもと、「共謀罪」の問題点を以下のようにあげていました。

集団の抗議行動や不買運動業務妨害と問われかねない

「(NGONPO共謀罪に反対する共同アピールを出した理由を)民主主義の根幹である表現の自由や市民の言論の自由が脅かされるという危惧は私たちと共通するものだ。政府や企業に対して市民の立場から政策提言したり、異議を申し立てることはNGONPOの日常的な活動だが、例えば、集団での抗議行動や製品の不買運動などが業務妨害とされて、その協議をすることが共謀罪に問われかねない。自由にものが言えない世の中になり、市民の声を社会に届けることが難しくなる」

環境や人権問題に取り組むピースポートの活動にも支障が

「(活動への支障という点で)共謀罪の対象にされる可能性があるということで、NGONPOに参加して活動しようという人が減るのではないか。世界各地のNGOパートナーや現地の人々と、環境や人権などさまざまな問題に取り組んできたピースポートの活動にも大きな支障をきたす。日本でもようやく定着してきたNGONPOの活動が萎縮してしまい、市民活動の活力を奪うことになる」

政府の都合で「正当」か否か決める危険性ないか

また、「(正当な目的の団体や活動には適用されないとするが)正当な目的を持つ団体かどうか誰が何を基準にして決めるのか。法律に明記されなければ納得することはできない。政府側の都合のいい団体だけが正当な団体とみなされ、反対意見を言う団体は正当でないと判断される危険を感じる」と、語っています。

さきの大戦の経験生かし、日本の進むべき真の道選ぶ

社会正義と大きく構えなくても、今日、さまざまに噴出する社会の不条理を前にして、「怒る」こともできない市民に、追い討ちをかけるように、「共謀罪」のような市民を締め付けかねない法制化が進んでいます。そんな時代だからこそ、また、先の大戦を経験した日本だからこそ、次世代、次々世代のためにも、今後一層進む世界のグローバル化のためにも、偏狭なナショナリズムを廃して、民主的な日本の進むべき道を選択していかなければなりません。そうした上で、かつて新聞紙上で紹介された記事ですが、再掲させて頂いて内田樹さんや荷宮和子さん、櫛渕万里さんらの声に耳を傾けたいと思います。