未来への希望を抱いて(53)

私たち国民の責務【その8】

「新規雇用契約」を撤回させたフランスの若者たち

フランスでは、政府の新雇用促進策「初期雇用契約」(CPE)をめぐって、若者たちが政府に激しく抗議し、ついにこの新雇用促進策を撤回させました。
初期雇用契約CPE)に反対する労働組合・学生らの抗議行動は、3月28日には、ひろく全国規模のストライキに発展しました。政府の考えたこの契約というのは、高失業率がつづくフランスのなかで、20%を超える若年従業員の解雇を容易にすることで、逆に企業が新規採用をし易くする狙いがありました。
そのため、企業は、2年間の試用期間中は理由なしで解雇できる、としたもので、26歳未満の年齢制限を設け、零細企業から中小・大企業まですべてを対象にしていました。

英米流のグローバリズムに根強い反発か

フランスでは、68年の学生運動「5月革命」が、当時のドゴール大統領を退陣に追い込む契機となった歴史がありました。しかし、今回の特徴は、労組と学生が共闘していることです。というのも、背景には、英米流のグローバリズムや雇用制度の自由化に対する根強い反発があるからだと見られています。そして報道によれば、今回のCPEの撤回を求めている学生、労働者は、欧州憲法に反対した層とも共通している、ということのようです。
結局、CPEシラク大統領の「2年間の試用期間を1年にして、解雇の際には理由を示す」とした仏政府の修正案も労組や学生側に受け入れられず、4月10日には、事実上撤回に追い込まれました。こうして新法は、昨秋暴動を起こした移民系の若者などを対象とした、就職資格のない若者の雇用促進を狙いにしたものに変わる、ということのようです。

政治を動かす若者らのエネルギッシュな活動
マスコミはその活動を疑問視する論調めだつ

ところで、この間のマスコミ報道にみられる特徴は、テレビの特派員報告といい、新聞のニュース記事や解説などで、10%前後というフランス全体の高失業率のなかでも、とりわけ26歳未満の若者は20%を超える高い失業率と、それでいて仏社会の手厚い社会保障制度と労働者の権利保護などを上げ、労組や学生の「初期雇用契約」(CEP)の撤回は何をもたらすのかや、雇用促進という視点からみて、若者らの要求を疑問視するような論調がめだちました。
しかし、フランスの学生のこのエネルギッシュな活動といい、労組など労働団体などとの団結、共闘といい、権利擁護のもとに市民が政治を動かす活動の見事さは、日本ではとても真似のできないものでしょう。

日本には政治に開眼する市民、国民はありやなしや

だが、今日の日本社会には、市民や国民の権利を政治に反映させたいと思うような問題はないのでしょうか。とてもそうとは思えませんね。ますます広がる格差社会や、競争社会といわれるなかで、数え上げれば、きりがないほどの問題をはらんでいます。でも、フランスのように、フランス革命以来、いくつもの市民による革命的な活動の伝統を持った国と異なり、それを日本社会に望むことはできませんが、せめて社会の現状に目を凝らし、選挙などで主権在民の精神を生かし、行使するくらいの責任を果たさなくては、次世代、子や孫たちの将来に悔いを残すことになるのではないのでしょうか。

多くの示唆に富む毎日新聞「縦並び社会・第3部」
規制緩和格差社会の源流、宮内氏の執念に迫る

毎日新聞では、4月に入って「縦並び社会・第3部・格差社会の源流に迫る」という意欲的な特集を連載しました。
1回目(4月3日)は、「規制緩和へ一直線」「『反対』委員遠ざけ」の見出しで、規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦オリックス会長が規制緩和に執念を燃やすところから始まります。記事ではまず、JR仙台駅前にあふれるタクシー業界の現状から語られていきます。02年、タクシーの参入が撤廃され、仙台市だけで800台以上増え、運転手歴9年の男性(53歳)の手取り月収が12万ほど、というのです。男性の家庭では知的障害児を抱え、妻もフルタイムでは働けず、子どもに言語療法やカウンセリングを受けさせたくても、その費用も払えない、というのです。

生活という現実よりまず「規制緩和ありき」

タクシー業界の増車を規制する需給調整は緩和されたが、増車が進む一方、需給は伸びず、04年のタクシー運転手の平均年収は大都市部で308万円と、5年前より40万円下がった、というのです。生活保護水準以下の運転手も多く、仙台の業界団体は04年に増車の規制を求めて内閣府に申請したものの、「規制緩和の趣旨を損なう」と、認められなかったというのです。とにかく、生活という現実よりも、「規制緩和ありき」ということなのでしょう。

規制緩和に反対委員は消えていくだけ

だから、運転手の労働団体規制緩和の見直しを求め、内閣府規制改革・民間開放推進会議の事務局を訪ねたが、議長の宮内氏には面会できなかったとうことです。規制緩和で、労災保険の民間開放はセーフティネットを弱体化しかねないと反対した学者や、学校経営に株式会社の参入は、利益の株主還元を優先しがちになるから反対との持論を主張した委員の社長らは、関係する会議の委員からはずされたり、解任させられたりした、というのです。それを、国鉄民営化にもかかわった民間開放推進会議の議長代理、鈴木良男・旭リサーチセンター会長は、「われわれの思った通りじゃない人の席は消えていく」といったそうです。公の機関でありながら、反対意見を許さず、同質の人だけで固め、決めていくとしたら、公正を欠くこんな怖いことはありません。