未来への希望を抱いて(40)

現代社会の何処が問題か【その4】

国民の声なき声受け止める政治を求めて

「しかる教育からほめる教育へ」をモットーとする『夜回り先生』こと元高校教諭の水谷修氏のもとには、04年に本を出してからというもの、18万件余の相談メールが届いたそうです。毎日数十件のそんなメールのなかには、自傷写真を添付してくる子などざらにいる、というのです。これは毎日新聞(1月12日、朝刊「政治をひらく」)に掲載された「『小泉後』論」(聞き手は、前田浩智記者)で、以下は水谷氏にインタビューした記事からの紹介です。

攻撃的でゆとりや優しさない社会が出現
しわ寄せは家庭、とくに弱い子供にいく

「91年にバブルがはじけてから、日本の社会はものすごく攻撃的でイライラしている。ゆとりとか優しさがなくなってきている。そこで泣いているのは一番弱い人間、子供ですよ。家庭でまず追い込まれている。たとえば父親。会社に行けば、『リストラするぞ』。イライラを女房、子供に当り散らす。幼児虐待、増えているでしょ」と。
また、小泉政権をどうみるか、の問には、「人は褒められることでどんどん夢を見て成長していくのに、それがない。小泉内閣になってからこの4年間、めちゃくちゃひどくなった。歩けない人間に走れというんですか。そのペースでいいじゃないですか。国民はいろんな病を抱え、いろんな障害を抱える。優秀な人間もいるでしょう。すべて大事な国民。助け合いながらやることが大事じゃないですか。ゆとりがないんです、小泉さんの政治には」と、攻撃的でおおらかさに欠ける今日の社会の暮らしにくさを問題にします。

国民の高支持率が支える小泉政治、だが支持しない人へも目配りあるのが本来の政治だ

小泉首相があいかわらず高支持率を維持していることについては、「何が『刺客』ですか。たとえば、70%の支持が得られた、30%は支持していない。70%の言うことを聞けばいいというのは、日本の政治じゃなかったはずですよ。それが味方でなければ敵という。そうなんですか、人間関係って」というわけです。たとえ支持しない人々であっても目配り、気配りがあるのが政治ではないか、と迫ります。
そして、小泉流の黒白をはっきりさせるのが支持につながっているのでは、という点でも「優しさとか、ゆとりを失った政治がなんになるんだ。建物はね、ぎっしり建てたら、倒れる。必ず遊びがある。それが人間関係とか、政治とか、学校教育でも必要なんですよ。今、遊びのない論理だけで突っ走る、大変な時代が来ているんじゃないでしょうか。僕は人間を信じる、だから許す。優しさっていうのは必ず返る。憎しみは憎しみでしか返ってこない」と、今日の政治に疑問符をつきつけます。
また、97年の薬物問題にしても、当時の橋本龍太郎首相が対策本部長で動いてきたものを「その予算だって顧みられず、小泉さんは全く分っていない、何もしていない。彼はイメージだけで大事なことを考えて、雰囲気とムードで動いているだけだ」と怒る。

小泉後は、できれば1年、半年でも改革止める人に

最後に記者の「次ぎの首相が一番に取り組むべきことは」の問には、水谷氏は「できれば1年、半年でもいい、改革を一時的に止めて立ち止まってほしい。小泉改革の評価があれだけの人気の中で見えていない。40人クラスで39人は僕を好きだ、嫌いな1人はいじめられてもいい、これは通用しない。声なき声が悲鳴を上げていないか、もう一回見直してほしい。国民の総意の下で、改革のペースや、やり方を考えていけばいい」といいます。

競争社会には正当なルールが必要

小泉改革規制緩和は、今日の競争社会を見ても社会に浸透していることは論を待ちません。しかし、その競争に何でもありでは、一般国民やなかでも水谷氏が言うような子供や障害者などの弱者はたまったものではありません。それだけに緩和した後の競争を見越した確たるルールが必要です。そのルールなどが整備されないまま、規制緩和、官から民へといった改革が進めば進むほど、格差論で言えば「負け組」の出現であり、それが今日の社会に軋みを見せている大きな理由だと思います。
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《水谷 修氏=「みずたに・おさむ」 横浜市内の夜間高校教諭時代、夜の街で子供たちに声かけ活動を始め、子どもたちとシンナーや覚せい剤など薬物問題に命がけでかかわり、暴力団に親指をつぶされたこともあるとか。04年に高校教諭を退職し、子どもの問題で全国各地で講演活動や相談に乗る活動などを展開している。近著に「夜回り先生 こころの授業」(日本評論者)、49歳》(1月12日、同紙・水谷氏紹介記事参照)