「子どもの遊ぶ権利」

講演「子どもの遊ぶ権利」(5)

本当の知識は遊びの中から
楽しいだけの遊園地や読書だけではだめ

遊びはまた、学びの場でもあると思います。決して楽しみだけの遊園地のようであってはなりません。高度な機能を備えた乗り物のある遊び場や遊園地がたくさん出来ていますが、それらはただ楽しみを目的にしたものにすぎません。
フランスの教育学者、セレスチン・フレネは、本を読んでいるだけでは本当の知識は獲得できないといっています。本当の知識は経験に基づくものであることを、子どもと遊び場を語るうえで忘れてはなりません。子どもは遊び場を通して、自分のまわりの世界を体験します。自然の神秘、不思議さをコンクリートアスファルトの下に完全に覆い隠してはならないと思います。

運動能力と知性の間には深い関りがある

最近の研究では、子どもの運動能力が知性の発達に深いかかわりを持つことが明らかになっています。運動能力が発達しないと、学ぶこともむずかしいというのです。
遊びには、忘れてはならない社会的側面もあります。子どもたちが出会い、一緒に腰を降ろしていられる静かな場所が遊び場にはあるべきです。いつも動き回っているわけにはいきませんから、体を休める場も必要ということです。そうした場所は、子どもたち自身が落ち着いて互いに知り合える環境の中に造られるべきだと思います。

子どもや芸術家とパリの公園で冒険遊び場作ったフランス教育相

フランスの教育相は、国際児童年に際して、自ら子どもの問題に高い関心を寄せていることを示し、パリ中心部のある公園にテントを作って公開しました。それは冒険遊び場であり、子どもたちとパリの芸術家がひと夏をかけて面白い遊びの環境をつくったものでした。
そこで使った材料は、 ほかに使い道のない廃物ばかりでした。フランスの教育相は、その遊びを見る限り、子どもたちの創造性にもっと焦点を当てるべきであり、子どもたちが創造的に遊ぶ権利に一般国民の関心を集めようとしたと言えると思います。

子どもの遊ぶ権利獲得のため世界中で活動するIPA

IPAは、その遊ぶ権利をかちとろうと、世界中でたたかいを続けています。子どもたちは遊びを通じて創造性を発達させていくべきなのです。遊ぶことは教育であり、大人に成長していくうえでの自然な形の準備なのです。 [完]

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【後 記】5回にわたって掲載した本講演要旨は、「東久留米生活文化研究所」と「子どもの王国実行委員会」(東久留米市市民運動団体)が、1985年9月に発行した「子どもの遊ぶ権利に向けて―A・ベンソン公開シンポジウム― 記録集」から引用したものです。
同記録集に収められたA・ベンソン氏の講演は、同年5月、東久留米市で「IPA日本支部全国大会」が開催されたのに合わせて、前IPA会長のA・ベンソン氏を招き、同氏の記念講演をもとに収録したのがこの記録集です。掲載に当たっては、本文には手を加えませんが、中見出しだけ増やしてあります。
今から20年ほど前の講演ですが、ここで言われていることは古いどころかわが国にとっては、ますますベンソン氏の指摘するような問題に耳をすますときにきていると思います。それというのも、日本社会は核家族化し、近隣との連携を欠き、マイホームに埋没する家族は地域社会から孤立してきました。そうした孤独で機能の低下した家庭環境などで起こる乳幼児虐待事件は毎日のようにニュースとなり、また、想像もできないような青少年の残虐な犯罪がくりかえし起こっています。
情報過多とバーチャルな世界、人間不信、連携を欠き孤独で孤立化した社会、自死が三万人をはるかに超える社会、学校も社会も競争競争で気も休まることなく、人生を自転車操業している社会……、こんな社会が、世界第2の経済大国の姿です。幸せのわけがありません。
そんな時代だからこそ大人の責任で、せめて子どもらに少しでもよりよい社会や生活環境を用意していけることを願って、そのひとつの助言としてA・ベンソン氏のかつての講演を再掲させてもらいました。